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東京地方裁判所 平成8年(ワ)3861号 判決

別紙目録記載の選定当事者原告

水津正幸

原田拓郎

別紙目録記載の選定者

徐教貞

(他八名)

被告

株式会社テラメーション

右代表者代表取締役

田中靖章

主文

一  被告は、別紙目録記載の選定当事者原告水津正幸に対し、金八四万七三四〇円、同原田拓郎に対し金三四万五五七〇円、別紙目録記載の選定者徐教貞に対し、金一三万四四三八円、同朴眞嬉に対し、金七万六五一一円、同梁純福に対し、金一九万六九六五円、同崔漢に対し、金一一万四五七五円、同全鍾皞に対し、金一一万三五九〇円を、同劉成浩に対し、金一〇万七三八一円、同姜景徳に対し、金一七万一七〇九円、同李準宰に対し、金一万円及び同丸山あずさに対し、金一五万六一六七円並びに右金員に対する各平成八年三月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決の主文第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の主張

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、コンピュータによる図形処理ソフトウェアシステムの開発等を業とする会社である。

2  原告らは、平成七年八月二一日から同年九月三〇日にかけて、訴外八州技研株式会社(以下「八州技研」という。)に、原告水津正幸は正規の従業員として(日給八〇〇〇円)、原告原田拓郎及び選定者らはアルバイト従業員として(時給七五〇円・二〇時からは時給二割五分増し)、それぞれ雇傭され、いずれも訴外国土情報開発株式会社(以下「国土情報開発」という。)から八州技研及び被告が共同で請け負った図形データ作成作業等に従事した。

3  被告は、平成七年一〇月一日、八州技研の国土情報開発に対する業務を全面的に引き継いだ。

これに伴い、原告ら及び選定者ら全員は、同日、正規従業員である原告水津正幸については基本給月額一六万円(法定残業一七時三〇分から二二時までは時給一三二八円、深夜残業二二時から翌朝九時まで及び休日出勤は時給一五九三円)及び業務に要する交通費、アルバイト従業員については時給八〇〇円、法定残業一八時から二二時までは時給二割五分増し(深夜残業二二時から翌朝九時まで及び休日出勤は時給五割増し)及び業務に要する交通費、いずれも毎月末締切・翌月一〇日支払との約定で、被告に移籍して雇用され、以後、引き続き、被告が国土情報開発から請け負った図形データ作業等に従事した。

4  被告は、右業務引継及び移籍がなされた平成七年一〇月一日ころ、八州技研との間で、原告ら及び選定者に対し、八州技研の未払賃金を支払う旨の債務引受の合意をし、原告ら及び選定者らは、右合意による未払賃金債務の承継を承認した。

よって、原告ら及び選定者らは、被告に対し、別紙未払賃金表記載の各未払賃金及び未払交通費並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成八年三月九日から支払済みまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実は認める。

4  請求原因4の事実は否認する。

(被告の主張)

1  被告は、原告ら及び選定者らの平成七年一〇月一日以降の被告勤務による賃金及び交通費の支払義務の存在は認めるが、八州技研在籍当時の未払賃金の支払義務については、支払義務はない。

2  被告は、八州技研との合意により、同社の業務及び従業員を引き継いだが、同合意の際、八州技研における原告ら及び選定者らの未払賃金の支払義務については、原告ら及び選定者らとの間で協議する権利を留保したのであり、したがって、原告ら及び選定者らに対して無条件で未払賃金支払義務を承継したものではない。

3  原告ら及び選定者らの賃金のうち、八州技研在籍当時の賃金は、八州技研が支払うべきである。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の各事実については、いずれも当事者間に争いがなく、また、被告は、原告ら及び選定者らの被告在籍後の賃金(交通費を含む。)については、支払義務があることを承認している。

二  本件の争点は、原告ら及び選定者ら(以下「原告ら」という。)の八州技研在籍当時の未払賃金債務を被告が承継するか、そして、これが肯定される場合には、原告らの八州技研在籍当時における未払賃金の額である。

1  まず、右原告らの八州技研在籍当時における未払賃金債務承継の点についてであるが、被告と八州技研との間の合意を記載した書面である「債務引受承諾書」(〈証拠略〉)の記載文言中の未払い債務一覧表欄の6項には「9月アルバイト、コンピュータ訓練給与」との記載があり、その合計額が八五万八五五〇円であることが明記されているところ、弁論の全趣旨によれば、被告は、平成七年九月当時においては、国土情報開発から請け負ったデータ入力作業を担当するアルバイト従業員らのためのトレーニングを担当していたことが認められるから、特段の反証のない限り、右「債務引受承諾書」の記載は、原告らを含む八州技研従業員らのうち被告に移籍した者全員に対する未払賃金の額を示すものと推定すべきであり、その他右記載文言全体の趣旨等からすると、明らかに、被告が八州技研の未払賃金の支払義務を引き受けたことが認められる。そして、この被告と八州技研との間の合意は、合意当事者である被告及び八州技研との関係では第三者の立場にある原告らのためになされた契約であるが、原告らが右合意の効力を承認していることは、本件訴訟の態様からして明らかである。

したがって、被告は、八州技研の未払賃金債務を承継し、原告らに対して八州技研在籍当時の未払賃金を支払う義務を負ったものと認められ、本件記録上、この点に関する被告の反対主張を支持するような証拠はない。

なお、被告は、原告らの八州技研在籍当時における賃金については八州技研が支払うべきものである旨を主張している。たしかに、特段の事情がない限り、被告の債務引受があっても八州技研の本来的な賃金支払義務が消滅することはなく、右認定のとおりに被告について債務引受の事実が認められてもなお、八州技研は、原告らが八州技研に在籍していた当時の賃金債務を支払うべき義務を負っているのである。しかし、被告は、右認定の債務引受によって八州技研当時の賃金債務を引き受けたのであるから、原告らに対し、原告らが八州技研に在籍した当時の賃金を支払うべきである。被告は、八州技研に対し、原告らが八州技研に在籍した当時の賃金相当額を求償請求することなどによって事後的な調整をはかるべきである。

2  次に、八州技研在籍当時における未払賃金の額であるが、右のとおりに債務承継が肯定され、かつ、原告らが八州技研に雇用された後、その全員が被告に移籍したことについては当事者間に争いがない以上、被告又は八州技研において賃金の全部又は一部を弁済したことを立証しない限り、原告ら主張のとおりの未払賃金債務があるものと判断すべきである。

三  以上によれば、原告らの本件請求は全部理由があるからこれを認容し、なお、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおりに判決する。

(口頭弁論終結の日・平成八年六月三日)

(裁判官 夏井高人)

《未払賃金表》9月分(八州技研株式会社)

〈省略〉

《未払賃金表》10,11,12月分(株式会社テラメーション)

〈省略〉

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